曲目解説 by W.カネンガイザー
●ファリャ[カネンガイザー編]:粉屋の踊り
マニュアル・デ・ファリャ(1876 - 1946)はバレエ『三角帽子』を1919年に書き下 ろし、20世紀初頭のスペイン国民楽派の作曲家としての地位を確立した。この色鮮や
かで極めて民族的な音楽は後に管弦楽用組曲に編曲され、聴衆の高い人気も得たが、 ギター奏者にとっても編曲作品の豊かな素材源にもなった。組曲の中から編曲として
選ばれた炎のような〈粉屋の踊り〉は特にギターの響きと相性が良く、効果的と言え るかもしれない。伝統的なファルーカのように曲は熱烈なファンファーレで始まり、
テーマは力強いラスゲアード和音で現われる。熱烈なフィナーレはゆっくりと始まる が、ロバに乗った粉屋が家に向かう足をどんどん速めるかのように徐々にテンポが上
がる。この作品は1978年に師ぺぺ・ロメロの下で初めて手がけたギター編曲作品であ る。
●ヘンデル[カネンガイザー編]:組曲第8番
ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル(1685 - 1759)はバロック時代の巨匠の1人であ る。1720年頃に作曲された〈組曲第8番〉はもともとト長調で書かれていたものだが、
この編曲ではニ長調に移調してある。はっきりとした2声で構成され、そのラインの 明快さと繊細さはギター編曲に特に向いている。最初の〈アルマンド〉は直接〈アレ
グロ〉につながるが、その〈アレグロ〉はオープニング舞曲の“ドゥーブル”で、倍 の速さで弾かれる変奏曲である。続く威厳のある〈クーラント〉では美しいパッセー
ジがいくつもの転調をする。〈アリア〉は意外にもリズミックな旋律で、ブーレを思 い出させる。鋭敏なトリルと滝のように落ちるベースラインが特徴の〈ジーグ〉で終
わる。
●ロドリーゴ:小麦畑で、古風なティエント、ファンダンゴ
ホアキン・ロドリーゴ(1901 - 1999)はスペインの最も重要な20世紀の作曲家の1 人であり、今日のクラシック・ギターの位置づけに多大な影響を及ぼした演奏家の1
人といえるだろう。〈アランフエス協奏曲〉は器楽協奏曲としては最も多くレコーディ ングされており、そのテーマはアランフェス宮殿の入り口の歩道に彫り込まれている
ほどである。ロドリーゴが多数の優れたソロ作品を残したこともギタリストにとって 幸せである。ここで演奏する3曲は本来関連性がないものの、小組曲のような形でま
とめてみた。まずはスペインの田舎暮らしを描写する作品の1つ〈小麦畑で〉で始ま る。この曲は収穫を祝う素朴な踊りだが、悲しげな歌の独奏に中断される。その〈古
風なティエント〉はロドリーゴの古楽形式──この場合スペインのルネサンス時代の 無拍子のプレリュードであるが──に対しての愛着が表われている。自由に動くアル
ペジョはフラメンコに触発されたひらめきに中断される。締めくくりは〈3つのスペ イン風小品〉の1曲目である有名な〈ファンダンゴ〉である。ファンダンゴは派手な
フラメンコ形式として知られているが、もとはメヌエットに相当する高貴な宮廷舞曲 として生まれた。ロドリーゴの作品ではその威厳を保ちながらも、ピリッとする不協
和音や、まばゆいスケールのパッセージ、そして抒情的な中間部が加わえている。
●ソル:グラン・ソロOp.14
フェルナンド・ソル(1778 - 1839)は古典派の最も重要なギター作曲家の1人であ り、スペインの同胞アグアドと共に多数の作品を残した。〈グラン・ソロOp.14〉は
ゆっくりとした序奏で始まるが、曲は喜びの推進力によって噴火し、展開部ではまっ たく予想しない調に転調する。熱烈なフィナーレはロッシーニの序曲の興奮したコー
ダを連想させる。この人気の高い作品はいくつもの独特な版があり、中にはアグアド がほとんど書き直したのではないかと思うような版もある。今夜の演奏はメイソニエ
の第2版を使用している。
●ハンド:ミッシング・ハー
フレデリック・ハンド(1949 - )はニューヨーク在住の演奏家・作曲家である。 彼の最も有名な作品〈トリロジー〉に聴かれるように、クラシック・ギターの環境に
非常に洗練されたジャズの影響を盛り込んだ作品の演奏で知られている。〈ミッシン グ・ハー〉は優しいジャズ・バラードで、ビル・エヴァンスのワルツを思い出すよう
な、美しいメロディーの輪郭と豊かでもの悲しいハーモニーが特徴である。この曲の 中間部は演奏家に即興を促しているが、ハンドは私へのクリスマス・プレゼントとし
て、即興部分を書き出してくれた。
●ヘッド:友だちのためのスケッチ集より
ブライアン・ヘッド(1964 - )はLAGQのメンバーでもあるスコット・テナントが 教鞭をとっている南カリフォルニア大学ロサンゼルス校で、同じくギターと作曲を教
授している。学生の頃に作曲した〈友だちのためのスケッチ集〉は若き日の彼にとっ て大切だった人たちに各楽章を捧げている。様式的にも異なる曲ばかりだが、全曲ア
メリカ人らしい音楽的個性を打ち出している。〈ロブスター・テイル〉は音楽的休養 のために訪れたニューイングランドの海岸沿いの、ロブスターが大量に取れるメイン
州で書かれた。ナッシュビル出身の友人のために書かれたこの曲は北部のシンプルな メロディーと南部のカントリー調のトゥワング(ビーンという音)を組み合わせてい
る。〈11月の歌〉は切望の曲であり、元のガールフレンドのために書かれた。悲しい オープニングはブルージーなポリメトリックな中間部を囲む形で位置している。最後
の曲〈ブルックランド・ブギ〉はブライアンの最初のジャズ・ギターの師に捧げられ ており、マイルス・デイヴィスの〈So
What〉にインスパイアされたスウィングのグ ルーヴが感じられる。中間部は歩くようなベースラインと打楽器的なバック・ビート
のグルーヴの上に空を舞うような即興メロディーがある。
●ブローウェル:キューバの子守歌、特性的舞曲
レオ・ブローウェル(1939 - )は20世紀後半の最も重要なギター作曲家の1人で、 その作風は美しい調べの民謡的作品から無調性の雰囲気的な作品まで網羅している。
彼の音楽的様式は故国キューバのパルスが感じられるが、中でもここに紹介する初期 の2作品はそれがはっきりと分かる。この2つの小作品はキューバで過ごした幼児期の
風景に触発されている。最初の〈キューバの子守歌〉は母親が子供の育児室に忍び足 で入るところから始まり、子供が眠れるように穏やかな歌を歌う。〈特性的舞曲〉も
子供を対象に歌われる民謡メロディーを用いている。この曲は危険な道で遊んでいて、 言うことを聞かない子供が怪我をしないように母親が子供を注意している情景を描写
している。
●ドメニコーニ:コユンババ
カルロ・ドメニコーニ(1947 - )はドイツ在住のイタリア人作曲家であり、夫人 がトルコ人であるため、数年間イスタンブール音楽院で教えていた。彼の最も有名な
作品の〈コユンババ〉は特徴も雰囲気もトルコの民族音楽が反映されている。オープ ン・チューニング(この場合は嬰ハ短調の和音)されたギターは、トルコの伝統的楽
器サズに似たようなドローン的な響きになる。4楽章で構成されているが、楽章の間 に中断は入らない。曲は羊の群を見失った羊飼いがその群を探す物語で、神の助けを
求めながら最終的にアナトリア平野を馬で駆けめぐる様子が浮かぶ。
|