エキノクス
武満徹さんが亡くなられてもう15年が経ちます。訃報を聞いたときの悲しさは今でも忘れません。
とても個性的で魅力的な作品を書いた人でしたが、あれ程までに人々に(演奏家は勿論のこと)影響を与えた日本の作曲家はいないでしょう。「北風と太陽」という童話がありますが、武満さんはまるでその「太陽」の様な人でした。書かれた作品も同様に、決して声高に叫んだりアジテートするような方ではありませんでしたが,その静かな物腰はかえって私達に、強く訴えかける何かを持っていました。
ギターが大好きで、ギターのために素晴らしい作品をいくつか書いて下さった武満さんですが、その多くはギタリストの荘村清志さんとの交流から生まれた物です。《Equinox》は1995年の出版ですが、亡くなる僅か一年前の作品です。荘村さんの演奏活動25周年のリサイタルのために書かれたとされていますが,聞くところによると、あえて荘村さんが記念の作品を頼んだというわけではなく、武満さんの方からプレゼントされた作品だと言う事です。今から思えばこのころ既に、武満さんは自らの病魔のつよさを自覚されていた筈で、間際に病床にありながら《森の中で
in the Woods》というギターのための名作を作曲された事は有名ですが、実はこの《エキノクス Equinox》も、それ程時期のはなれた作品ではありません。ということは、すでにこの作品が最も敬愛するギタリスト、荘村清志さんに対する、なかば「遺書」のような作品だったのではないか、と私は思っています。
(藤井眞吾/2011年9月24日)
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