暦の最後の頁が近くなると、北国の人々は慌ただしく冬の支度を始めます。北海道に生まれた私は今でもその習慣がからだのどこかに深く根ざしています。雪に埋もれた冬期は長く静寂に包まれた時間です。しかし、実はそういう時にこそ北国の人々の心の底からの生命への喜びが顕現するものであることは、体験したものでなければわからないかもしれません。今回は少し「静寂」の中に耳を傾けてみましょう。（藤井眞吾）

program note
　実は私は大学生の時には音楽の勉強ではなくて、音響の事を勉強していました。音響の中でも、音楽とはほど遠い「騒音の評価」というテーマで実験をしたり、論文を書いたりしていました。勿論その傍らでギターの勉強をしていましたが、レッスンに通ったり、コンクールに出たり、演奏会をやったりと、今思い返しても忙しい青春時代であったと思います。

　音楽とはほど遠いと申しましたが、実は「騒音 undesired noise」について勉強してみると、それを全く裏返せば音楽それは音楽と言っても過言ではない、と言えるような気がして来ます。実験の為に、大学の地下室に擬似的な「無響室」と言う物を作って、その中で測定を行うのですが、音の反射がありませんし、とっても静かですから、耳が「ツーン」として来るわけです。最初は痛みさえ覚えるかもしれません。実は私達の耳はいつも何かの音を聞いている、感じているわけで、いわばそれは「小さな騒音」なのですが、それが全くなくなると苦痛に感じて来るものでもあるのです。

　たとえば、鳥獣を驚かせ畑の作物を守る為に考案されたと言う「鹿威し（ししおどし）」の「カーン、カーン」という音は音はむしろ私達の耳には、落ち着きや静けさをもたらし、そぼ降る雨が軒から「ポツポツ」と滴る雨だれの音は、快晴の日よりも静寂は孤独を感じさせます。

　音楽作品の中には軽快なリズムや躍動的な音の動きが、それとは対照的な静かな楽章の「静寂」を際立たせたり、また静かでゆったりとした音楽が次に続く音楽の劇的な表情を効果的にすると言う場合がしばしばあります。本日はそんなことを考えながらギターの音をお聞きください。 （藤井眞吾：記／2015年11月28日）

今月の「プレゼント編曲」は、《ワルツ》（F.ショパン／藤井眞吾 編曲）でした。

program●
1.アンダンテ・ソステヌート（A.ディアベッリ）＆ラルゴ（J.S.バッハ）
　　A. Diabelli (1781 - 1858); Andante Sostenuto, Sonata No.3　
　　J. S. Bach (1756 - 1791); Largo, from Violin Sonata No.3 (BWV 1005)

2. 二つの作品 （A.バリオス）
　　A. Barrios (1885 - 1944) ; 2 pieces - ワルツ 二短調Vals en Re - フリア・フロリダ（舟歌）Julia Florida

3.　小さな空（武満 徹／編曲：藤井眞吾）
　　T. Takemitsu (1930 - 1996) arranged by S.Fujii; Small Sky

4.　三つの前奏曲 Op.28（F.ショパン／藤井眞吾 編曲）
　　F.Chopin (1810 - 1849) arranged by S.Fujii; 3 Preludes from Op.28
　　　- No.4 “Largo” d minor *
　　　- No.20 “Largo” d minor
　　　- No.1

5 “Sostenuto 雨だれ” G major

6.《さくら》幻想曲（藤井眞吾）
　　Shingo Fujii (1954 - ); Sakura Fantasy (2015)

7.　前奏曲第と練習曲（H.V=ロボス）
　 H. V-Lobos (1887 - 1959); - Preludes No.4 - Etude No.6 - Preludes No.3 - Etude No.12

8.　奇想曲《静 寂》 Op.50（F.ソル）
　　F. Sor (1778 - 1839); Le Calme (Caprice), Op.50

●チケット/\3000 　当日￥3500　4回券￥10000　6回券￥14000
●主催/ マンサーナ Manzana Tel.075-972-2834
●企画 /藤井眞吾/ http://homepage3.nifty.com/shingogt/
●会場/アートステージ567