《スペイン舞曲》という名前の付いた作品は、グラナドスに限らず、実は沢山あります。ですから《スペイン舞曲》という呼称は、固有名詞ではなく一般的な呼び方、ないしは《スペイン舞曲》というジャンルに近いような気がしています。カタロニアのレリダに生を受けたグラナドスは、まだ20代の若いときにこの曲集を作曲しましたが、版も重ねており、曲集のタイトルは《スペイン舞曲》で同じながら、版によっては個々の作品の名前が違っています。ちなみに、第5番の《アンダルーサ》は《プラジェーラ(嘆き)》と呼ばれることもあります。第2番の《オリエンタル》を《アラベスク》とした版もあるそうです。単に出版社のミスかもしれませんが、私は第2番が《アラベスク》と言う名前であることには、かなり賛成です。いずれにしろ、グラナドスにとっては、12曲全体が《スペイン舞曲》であることのほうが大事だったのでしょう。
グラナドスのこの作品を代表に、同じ時代のもう一人のピアニスト、アルベニスのピアノ曲もしばしばギターに編曲して演奏されます。なかにギター曲だと思われている物すらあります。私もグラナドスの《スペイン舞曲》に初めて出会ったのは、A.セゴビアの演奏するギターでした。それまではグラナドスという作曲家を知りませんでした。《スペイン舞曲》はギターリストの好んだ曲でした。そしてギター愛好家も大好きな曲でした。しかし私はセゴビアの弾く《スペイン舞曲》は全然好きではありませんでした。ですから子供の頃は、グラナドスという作曲家には何の興味もありませんでした。
ずいぶん後になってから、ピアノで演奏される「原曲」を知りましたが、その時私は初めて感動しました。やはり、良い曲なんだと思ったのです。それは演奏者の負う責任も大きいでしょうが、やはり「編曲」というプロセスを経て、変質する何かが原因であったかもしれないと思うのです。グラナドスやアルベニスの作品をギターに編曲して有名にしたのはF.タレガやM.リョベットですが、私は彼らの編曲には演奏家としての彼らの「手癖」があまりに色濃くありすぎて、好きにはなれません。作品との関わりは、人との出会いのような物ですから、私は紹介者を介さず、虚心坦懐にこれらの名作と付き合っていきたいと思っています。
(藤井眞吾/2010年5月28日)
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